ある日学校に行ってみると机も椅子も体操服をはじめ、ロッカーの中身もすべて幻だったとでも言うかのように消え失せていた。存在自体が消えることは決してないだろうが、始業を告げるベルがあと数分で鳴るこの短い制限時間以内に見つけられそうもないのなら、それらは地球上から消滅してしまったも同然だ。僕はひどく驚きはしたものの、視線を下げたまま周りを見渡してみれば含み笑いの気配などどこにもなく、あまりに完璧に僕に所属していたものたちだけが綺麗に切り取られていたので、ああこれが当たり前の光景なんだなと不思議と納得する。僕がここにいるのはまったくもってイレギュラーに他ならぬ。ならばここにいる理由などない。唯一残されていた上履きをきゅっと鳴らし、教員の入室と同時に教室を出た。教室にないのなら僕の居場所なんてもうどこにもない。机も椅子もロッカーも、僕の居場所を教えてくれない。下駄箱で靴を履き替え、上履きをそのまま鞄の中に突っ込み外に出ると、ちょうど太陽が雲間から顔を覗かせる頃合だった。校門には遅刻者を叱りつける教員がいたが、顔色の悪い生徒がひとり出て行く分にはお咎めなしらしい。きっと早退だと思われたか、僕が見えていないのだろう。清々しいくらいに世界は僕の存在を認めてはくれなかった。



上履きと僕

2013.02.22