と言ったら殴られた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「何でさ」
 
何でいけないの、解らないよ。
解らせてよとーない。
何で穴を掘ってはいけないの。
何で蝶を追いかけてはいけないの。
何でしてはいけないの?
わたしがこう言うとそれが決まり事であるかのようにとーないは眉を寄せて困ったというふうな表情をする。
とーないは優しいから口にしないだけでわたしの物解りの悪さに付き合わせては疲れさせてしまっていることに何の不平も不満も抱いていない、と言うことは無いはずだし、それについてだけを述べるのなら本当に申し訳無いしありがたいし何と言うかもう、すみませんとしか言いようが無い気がする。
気がする。
そしていくらわたしをそこまでその気にさせてしまう程優しいとーないでも不平や不満を抱いちゃうんだよなあとも思う。
気がする。
本当に口にしないだけなんだ。
ここまで言って、何で解ってくれないんですか、って思ってるって知ってる。
とーないのことなら他の誰よりも知っている。ご
めんね、とーない。
でも、それでも解らない。
 
「綾部先輩」

「とーない」

「はい、藤内です。…綾部先輩、穴に落ちたら、痛いでしょう」
 
痛いでしょう、と言うとーないの口調は小さな子供に言い聞かせる母親か何かのそれにそっくりでわたしはわたし自身が小さな子供になってしまったように感じる。
それと同時に、言い聞かせるように諭すように話すとーないも可愛いなあと思う。
思ったら、とーないの太い眉がまた寄った。
 
「ちゃんと聞いてるよ。痛いのは知ってる」
 
痛いは痛い。
落ちたら痛い。
だから痛い。
それは解るし逆に言えばそこまでは解る、そこまでしか解らないということだけど、でも、だから、何。
 
「痛いのは嫌だから」

「わたしも痛いのは嫌だよ」
 
痛いのは痛いってことだから、嫌だ。
 
「…嫌だから、いけないんです」
 
別に痛い思いをさせたいから穴を掘ってるわけじゃないのに。
解ってよとーない。
解らないよとーない。
解らせてよ、とーない。
 
「今はまだ足を挫いたり…掠り傷を負うぐらいで済んでいます。でも、もし学園の誰かが大怪我を負いでもしたら」
 
そこでとーないは言葉を切った。
悲しげな顔色をしたとーないは何時にも増して綺麗に見える。
戸惑ったように静かに動く瞳すら美しい。
正座をした膝の上にそろって添えられた両手も可愛らしい。
とーないは顔をぐ、と上げてわたしを見た。
 
「…とにかく、少しの間だけでもいいんです。穴を掘るのを止めてください。蝶を追いかけるのもなるべく、控えてください」

「やだ」

「先輩」
 
何でですか、と涙まで浮かべだしたとーないにいやだもん、と駄々を捏ねるわたし。
弱り切った顔でため息を吐く。
そんなとーないも素敵だよ、と駄々を捏ねながらも思う。
でもね、そんな素敵な顔をされてもこれだけは譲れないの。
 
「ねえ、とーない」

「…何ですか」
 
だってさ。
わたしの大好きなとーないを捕まえるため、わたしの愛しいとーないに捧ぐために動くのは、けして悪いことじゃあないだろう?
 
 
 
 
 
 
 
と言ったら、殴られた。
 
 
 
 

「綾部先輩のわからずや!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
藤内の心情↓
何で予算会議前なのに、綾部先輩は言うこと聞いてくれないんだ!少しでも心象を良くしようと思ってるのに!
いつ書いたものだか忘れてしまいましたが再録
とーあや好きです