ライオンは嘘つき
お前が私を嫌っている。
それがどうした。何の枷にもなりはしない。私がお前を好いている、それだけが重要だ。
お前がいくら私を嫌い厭うたところで私はそんなことなど気にもしない。
それはすべてが見せかけで、口吸いだって身体を繋ぐことだってできる。
私がお前を好いていさえすれば良い、それがお前の枷となる。
「なあ滝夜叉丸」
「…なんですか」
「私のことが嫌いか?」
びく、と身体が小さく震える。それを私は見逃さない。
「私は、あなたが嫌いです」
ちらとだけ目を合わせ伏せる、知っているか滝夜叉丸。お前のその解り易さを。
「そうなのか?」
矜持の高いお前は嘘をつくのが苦手だろう。問いかけるように確認するように訊き返せばまた動揺する。びくり。震える。
「…嫌いだと言ったでしょう」
小刻みに揺れる肩が自分の言葉に反応しているのがお前に解るだろうか。解らないだろう。
「そうか。…うん、それならいいんだ」
傷付いた風な表情を装う。
お前も傷付いた風な顔をする。
良いんだよ、解っていないのなら、それはそれで。
お前は私を好いている。
そうなんだろう、滝夜叉丸。お前は本当に解り易い子だね。
忍びとしてお前、失格だよ。
それともその癖は私にだけ?
お前が私をどう思っていようがどうだって良い、だけどな、お前がいくら私を好いていたとしてもこの行為に救いを求めてはいけない。この行為で救われてはならない。
口吸いだって身体を繋ぐことだってできる、でもここに愛なんてものがあるとは思ってはいけないよ。
それはすべてが見せかけだ。
お前から見れば私はお前を好いているだろう。
お前から見てもお前は私を好いているだろう。
お前から見たら、私がお前を好いていないことなど、解らないだろう?
そこがお前の未熟なところだ。色眼鏡で世界を見るな。
私はお前を好いてなどいない。