どうして言えないの
 
 
 
 
 
 
非常に、気になる。
 
きっと本人は気にしていない、と言うより気付いていない。
 
言った方が良いのだろうか とリオンは悩む。
 
しかしそんな小さなことに気付いた自分を知られるのは嫌だ恥ずかしい、それがばれてしまうくらいなら言わない方が自分にとっては望ましくしかしもし偶然、だれかがそれに気付いて指摘したらそれは彼女の恥になってしまう。
 
どうする、僕。
 
そもそもなんで気付かないんだフィリアは、お前女だろう。
 
男の僕が気付いたのに。
 
しかしフィリアはどこか自分に関しては無頓着なところがあるからそれも無理はない、か…
 
むしろ好いた女性のことだから些細なものにも気付いてしまうのかと思うと自分の恥ずかしい部分を自覚して目の下、頬のあたりが熱くなる。
 
他人には聡いフィリアが心配そうな顔で「リオンさん、顔が赤いですわ」と風邪でも引いたと思ったのか近付いてきて上目遣いをするものだから耳まで熱い。
 
いまいましい身長差の割に彼女はリオンを下から伺うような形で見上げることが多く、「何でもない」と手をひらと振ってみても不自然にそこから目を離すことが出来ないでいるリオンにフィリアは首を傾げる。
 
しかし彼女が何某かを口にする前にスタンが10メートル先から彼女の名を呼んだからその先に何と言おうとしたのかは分からない。
 
明らかな喜色を浮かべてスタンを振り向く彼女に胸がざわつく。
 
じっとしていられなくて彼女を引き止めるために僕も名前を呼ぶ、こんな感情は初めてではない。
 
体をスタンに向けながらフィリアは首だけ向けて僕の方を見る。

「何でしょう、リオンさん」
 
「…あー、その…裾がほつれているぞ」

目を丸くするフィリアに、僕は失敗した と目を瞑った。
 
しかし僕の心配とは裏腹に彼女は「…まったく気付きませんでしたわ」とだけ言った。
 
杞憂に終わった。
 
少し残念な気もしたが、なんて考えは隅に押しやる。

「よくお気付きになりましたね」
 
「あ、ああ…」

感心した様子のフィリアにこっそりため息をつく。
 
なんでもない表情、これこそがいまいましいのだ。
 
きっと本人は気にしていない、と言うより気付いていない、僕の気持ちなんて。
 
それなのに無邪気に笑いかけてきたりなんかするから期待してしまうんだ。

「リオンさん、きっと良いお父さんになりますわ」

何も知らないフィリアは綺麗に笑う。
 
お前、それは無自覚か。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
write:2010.09.06

友人に「書け」と言われ三十分で書きました