頭ががんがんする。
「あ、あ、梓ぁ…わたし、吐き、そう」
「ちょっ…先輩、待ってください今洗面器を…!」
「待てな…   うぇ」
べちゃ、と液体と固体の入り混じった吐瀉物が私の胸にかかる。夕方食べた豚の生姜焼きだったお肉とか、きゃべつの千切りとかが中途半端に咀嚼されて、また中途半端に消化されたやつらだ。すっぱ苦い胃液と生姜の味が舌の根本にじんわりと染みこんでいく。その気持ち悪さと自分の吐き出したものにまた嘔吐感が押し寄せてくる。
「う、うえ、   」
べちゃべちゃべちゃ。げぼ、と汚い音をたててげっぷまで出てくる。こりゃ終わったな色々と…どろどろの寸前くらいまで分解されたご飯つぶが鼻の方に行ってしまったのがこれまたずいぶんともどかしく気持ち悪かった。私には語彙が少ないから説明のしようもないが、気持ち悪い気持ち悪いと言いながらもそのすべては別種の気持ち悪さだ。不快である。口の中から食道にかけての酸味っぽさが喉を絞り上げてくるようで息苦しい。
「あーあー、派手にやっちゃって」
梓、と呼ぼうと声のした方向に顔を向けるまではできたが、そこでまた胃の中の残り物が喉までせり上げてきた。
「うぇ、  げほ、ぉ」
「…僕の顔見て吐くのはやめてくださいよ」
それはまったくの誤解なのだが、弁解する暇もなく私は戻し続ける。今度は胸にはかからず、屈んで床に、ではなく梓の持ってきた洗面器の中に吐き戻す。もうお肉っぽいものはあまりなくて、代わりにご飯つぶがいっぱいだ。黄味を帯びた白色が洗面器の底に薄く溜まる。その色を焦点の合わない目で眺めていると、何故だか涙が出てきた。梓の手が背中を遠慮がちに撫でてくれて、いつも高飛車な梓くんはどうかしちゃったのかしらと少しだけ心配になりました。
 
 
 
 
 
 
 
~木ノ瀬梓の場合~
 
write:20110815