あなたは『傷つくのは自分だけでいいと思っている』柳くんを幸せにしてあげてください。 http://shindanmaker.com/474708





見るからにバッファーかデバッファーあたりだろうという顔をしているのに、彼は自分はタンカーなのだという宣言と共に自己紹介を終えた。人って見かけによらないなあと呟こうとしたら、先を越されて「人って見かけによらないなあ……とお前は言う」。やっぱりこんな人がタンカーだなんて私には思えない。だって、体力はまあありそうだけどそれは全て魔力に還元されていそうだし、これまで会ったどんな人よりもこの人は魔法の扱いに長けていそうだ。何と言うか、そういう空気を纏っている。「確かに魔法も得意だが、好きなプレイスタイルを優先したいものでな」私の考えを読んだかのように言葉を続ける彼は「アビリティポイントは振っていないので期待しないでくれ」と冗談めかして笑った。「回復は任せたぞ」「仕事を奪われなくて助かったよ」よろしく、と握手を求めて手を差し出すと、彼は笑って応じる。どうやら無表情キャラではなかったらしい。

それから何度か共にクエストをこなしたが、相性が良いのか何なのか、彼と組むといつも負け無しだった。彼の側から見てもそうであるかは分からなかったが、私が誘うといつでも二つ返事で付いてきてくれたし、気付いたら同じギルドに参加してくれたのであちらもやりやすい相手程度には認識してくれているのだろう。負け無しとは言ったが、いつも余裕で勝っているわけではない。何回かぎりぎりのところで競り勝ったというような危うい戦闘も経験している。その役割ゆえにいつも体をぼろぼろにしている彼は「傷付くのは俺だけで良い」と笑みすら浮かべながら、私の施す治療を受ける。この人は中二病なのだろうかと思ったが、そういったことをぽつりとこぼす時の彼は決まって真剣な表情をしていたので、茶化すタイミングは掴めないままだ。

何百回、何千回も行動していると、さすがにだんだんと完全に負け無しというわけにはいかなくなってきた。しかし白星の多さは相変わらずである。この頃はどこに行くにもコンビで行動していたし、相手を置いてクエストに参加したりということもほとんどなくなっていた。彼もやりやすい相手、以上の認識を持ってくれていることだろう。いつの間にか私たちは仲間にセットで扱われるようになっていたし、私たち自身もそれが当然であるという顔をしていた。しかし、そんなある日、私たちの所属するギルドに新しいメンバーがやってきた。同じ女であったので私はすぐにピンときた。身につけている装備がステータスと比較して、上等すぎる。ヒーラーだなんて嘘だ、彼女は間違いなく、クラッシャーである。猫なで声で挨拶を終えた彼女は早速、何人かを引き連れてクエストに向かうことになった。勇姿を募る中、誰かが彼に声をかけた。彼の勝率は高い。役割上、目立つこともない。早くも皆のお姫様となった彼女を守る盾役には申し分ないだろう。騒がしい輪を抜け出し少し離れたところからその様子を見守っていたが、身振り手振りを見る限り彼は誘いを断ったらしかった。首を傾げていると同じように抜け出してきた彼が私を見て、困ったように笑った。私はしばらくこのことを疑問に思っていたのだが、誘いを断った理由をわざわざ穿り返すのもためらわれる気がして疑問を疑問のまま放置することにした。

あれからしばらくの時が経ったが、未だに私たちは二人ひと組であちこちのクエストに顔を出している。例のクラッシャーの彼女は私たちのギルドにしばらく逗留した後、大きな傷を残し去っていった。あれ以来、これと言って特別な事件はなく、代わり映えのない日々が続いている。あまりにも何も起こらないせいで、私はまだ、彼が困ったように笑いながら言った「俺の傷を癒すのはお前だけで良い」という言葉の意味を確かめられないでいる。


write:20141229

柳蓮二をハッピーエンドに誘導する!