あなたは『「2人だけの約束」を大切にしているのは、もう自分1人だけになってしまったんだな、って自覚した』柳蓮二くんを幸せにしてあげてください。 http://shindanmaker.com/474708





記憶力が良いって、損だと思う。そりゃあ暗記系のテストはきっと私みたいなバカよりずーっと楽にこなせるだろうし、きっと悪いことより良いことの方が多いはずだ。でも、損だ。むかしむかしにした約束をいつまでも覚えていて、相手が忘れてしまっても自分だけは覚えているなんて、こんなに苦しいことはないだろう。

柳蓮二という男は、私とはいわゆる幼馴染の関係にある。これがまた尋常でないくらい頭の出来が良い奴で、何年前の会話内容であっても数分前の出来事ですよ、みたいな顔で諳んじることができるというずば抜けた記憶力の持ち主だった。その記憶力を活かして私が何かしら失敗するたびに幼稚園児や小学生だった頃のことを引っ張り出しては姑みたいな小言を繰り返すものだから、この頃は私の中には彼への苦手意識がすっかり根付いていた。年を重ねるにつれて彼の小言は行動だけでなく私の服装にまで至り、今やソックスの色もスカートの丈も抗いようもなく彼の管理下。何が悲しくて思春期真っ只中の女子中学生が、同い年の男子にスカートから下着が覗く危険性について諭されなければならない。彼にはデリカシーというものが欠如している。苛立ちに任せそう訴えても、涼しい顔で「お前には言われたくないな」と返されて遣りどころのない怒りは募るばかり。「お前は俺にデリカシーがないと言うが、6歳の頃、お前が俺に言った言葉は覚えているか? お前はこう言った。『蓮二って、お……』」やめてくれ!!一体6歳の私は彼に何を言ったのか。昨日の夕食すら危うい私にはもちろん思い出せるはずがなかった。しかし今までの経験からして悲鳴を上げたくなるような内容なのは確かめるまでもなく明らかで、忘れたままでいられるなら忘れたままでいたい。もしかすると私がこう考えると予測して仕掛けられたブラフだったのかもしれないが、何にせよああ切り出された時点で私の負けなのだ。勝ち誇った顔で私を見下ろす彼は、笑いながら、人差し指で私の額を弾く。「お前が扱いやすい奴で俺は助かっているぞ」蓮二の短く整えられた爪が良い音を立てる。それほど痛みはなかったが、屈辱は加減されて減るものではないので私は野良猫のような気持ちで彼の手を払った。仕返しのつもりだったが、彼にはちっとも堪えていないようだった。「まあ、その記憶力の悪さには難儀させられているわけだが……」そう言った彼の顔には既に苦笑の色はなく、真顔で吐く台詞だろうかと私は首を傾げる。

「……お前は、6歳の時に俺に言った言葉を覚えているか?」さっきと同じ問いだってことくらい、いくらバカな私でも分かる。しかし、どこか違和感を覚えるのは単純に言い方が微妙に違うからとかそういう話ではないだろう。「覚えてない」「だろうな」ようやくここで彼は苦笑を浮かべ直す。下がった眉がどこかさみしそうに見えて居心地が悪い。まさか泣き出したりはしないだろうと思ったが、心配してしまうくらいにはそう見えた。ただ、私の記憶力の悪さに呆れているだけのはずなのに。「……本当に、忘れてしまったんだな」あんまりさみしそうに、悲しそうに肩を落とすものだから、私は蓮二がそう呟いたのに合わせて、「でも、蓮二は覚えてる」と励ましになっているのかも分からない言葉を投げかけた。彼の体がびくりと震える。一瞬、怯えさせてしまったのかと思うくらい大きく揺れた肩が、頭が、ゆっくりと私の方を向く。珍しく見開かれた鋭い瞳に射抜かれて、私は身動きがとれなくなる。視線に促され、もう一度口を開く。「私は忘れっぽいから、もう覚えてないけど」代わりに蓮二が覚えてくれてるんだから、それで良いんじゃない? もう思い出せないが、私はたぶんそんな感じのことを言ったんだと思う。気付いた時には私の体はすっぽりと彼の腕におさまっていて、頭の上の方から「そうだな。お前が忘れてしまっても、俺が覚えているなら約束は有効だ」と独り言のような囁きが聞こえる。約束なんて初耳で、何のこっちゃと口を開けば見計らったかのように背に回っていたてのひらが私の口元を通り、顎を固定した。この状態から何をされるか、いくらバカでも察しがつくというものだ。

結果だけを言えば、この時の接触が原因で私の脳みそからは優に数ヶ月分の記憶が吹っ飛んでいき、すべてが曖昧で現実味のない中、羽毛のように優しく啄まれた唇の熱と蓮二の浮かべた花の咲いたような微笑だけが確かな思い出として残っている。



write:20150101

柳蓮二をハッピーエンドに誘導する!
蓮二って女の子みたい!私のお嫁さんになってくれる?